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脱炭素時代に向けて銀行ができること~トランジションタスクフォースの挑戦~

日本政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、エネルギー・産業部門の構造転換や、イノベーションの創出に向けて民間資金を含めた大規模な投資を必要としています。(※)SBI新生銀行グループでは、電力やガス・石油業界など、二酸化炭素などの温室効果ガス(GHG)排出量が多い企業の脱炭素化への確実な移行(トランジション)を支援することを目的として、2021年に法人ビジネス内で部署横断的に「トランジションタスクフォース」を立ち上げました。タスクフォースでは、多排出産業の脱炭素に関する情報を集め、当行の営業担当がお客さまの移行支援を進めるための、ルール作りや勉強会を行っています。
 
※出典:
経済産業省ウェブサイト2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 (METI/経済産業省)
 
今回は、トランジションタスクフォースメンバーの4人に、この取り組みの意義や活動内容などについてお伺いしました。

語るひと(敬称略):
法人審査部 業務推進役 平澤記明
営業第二部 部長代理 大坪右弥
サステナブルインパクト推進部 部長代理 葛友樹
サステナブルインパクト推進部サステナブルインパクト評価室 室長代理 朝野美里
※部署・役職はインタビュー当時


自発的に始まったタスクフォース      未知の分野への挑戦

――タスクフォースの立ち上げの背景を教えてください。

大坪:2021年頃、世の中では急速に脱炭素の機運が高まってきました。多排出企業に従前通りに融資を継続していていいのか、という議論がありましたが、当行だけがその企業への融資をやめたとしても根本的な解決にはなりません。多排出産業には電力など生活に欠かせないインフラを担っている企業が多く含まれます。これらの企業に伴走して脱炭素化を支援することは金融機関として意義がありますし、銀行としてビジネス機会もあるのではないかと考えていました
 
平澤:私も当時は営業第二部にいて、大坪さんと同じ考えを持っていました。そこで多排出企業を直接担当しているRM(リレーションシップマネージャー、法人営業担当)部署と、法人のお客さまのサステナビリティ推進を担うサステナブルインパクト推進部企画チームとグループ法人企画部というメンバーで「トランジションタスクフォース」というチームを自主的に立ち上げました。
 
営業主導で進めてきたタスクフォースの活動について客観的な意見をもらいたい、ということで、昨年からサステナブルインパクト推進部評価室の朝野さんにも参加してもらいました。サステナブルインパクト評価室は、当行のインハウスの環境シンクタンクであり、メンバーのトランジションに対する考え方も朝野さんの意見が加わりブラッシュアップ出来てきたと感じています。こうやって、必要な人間をどんどん巻き込んでいけるのもタスクフォースの醍醐味です。

チームを引っ張る平澤さん。現在は審査の立場からタスクフォースに関わっています

――いろいろな部署の方が集まっているのですね。それぞれどのような役割を担っているのでしょうか。

朝野:私が所属するサステナブルインパクト評価室ではサステナブルファイナンス評価の内製化を行っています。現在日本政府や多排出企業で、脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略に則り、着実なGHG削減の取組を行う企業を支援することを目的としたサステナブルファイナンスの派生形である「トランジション・ファイナンス」による調達が活発になっています。私の方ではトランジション・ファイナンスに関連する原則や政府のガイダンス、脱炭素に関する国際的なスタンダード等に目を配っています。

大坪:私は、営業第二部で、エネルギーや鉄鋼、化学など多排出企業のお客さまと直接対話するので、お客さまから得た情報をタスクフォースに共有しています。サステナブルインパクト推進部企画チームである葛さんは、私たちタスクフォースとRMのつなぎ役で、RMをサポートしてくれています。

大坪さんは日々の営業活動で得た情報をタスクフォース活動に活かしています

葛:多排出企業のお客さまとRMとの面談に同席して対話をサポートしています。お客さまと対話するうえでは、移行の技術やイノベーションの知見を蓄えておくことも必要です。
 
平澤:私は昨年までは大坪さんと一緒にRMとして融資営業をしていましたが、今年から審査部に異動しました。審査の立場からだと、化石燃料への依存が財務に与える負の影響などの与信リスクの観点が加わり、より広い視野で関わることができそうです。
 
――移行の技術やイノベーションの知見を蓄える、というお話がありましたが、各産業の最新技術や動向を把握することは大変そうですね。
 
葛:各業界のレポートやセミナー、関係する官公庁の文書などを読んだり聞いたりして、最新の情報や動向を把握し、毎週持ち回りで勉強会を行っています。他の金融機関や証券アナリストから教えを乞うことも。最近では、蓄電技術に関するセミナーに参加したり、実際に開発している企業の社長に会いに行ってお話を伺ったりしました。
次世代技術のアップデートが早いのでキャッチアップが大変です。業界や技術の知識だけではなく、個々のお客さまの事業や戦略についても理解する必要があるので、大坪さんたちRMからの情報と組み合わせてお客さまとの対話に活かしています

お客さまと対話するためには、業界や移行技術についての勉強は欠かせないと語る葛さん

朝野:何を勉強していくか、タスクフォースとしてどんな取り組みをしていくか・・・、上から指示されて動くというのではなく、自分で考えたことが形になっていく面白さがありますよね。
 
大坪:小さいゴールを作って、そのゴールに向かっていろいろな人を巻き込んでいく。トランジションを自分なりに考えて、実行している楽しさがあります。
 
平澤:メンバーの所属である営業と企画と評価担当で絶妙な役割分担ができていますね。最初はどこから手をつけたらいいのか、みたいなところから始まり、毎週集まって、じゃあこの業界についての研究からやってみようか、とか自然と相談しながらできています。そうしているうちに、おのずとトランジションタスクフォースルールブックや、エンゲージメントシートの制定などの活動につながっていきました。

お客さまとの対話に向けた活動       なぜ対話(エンゲージメント)が必要なのか

――RMがお客さまの脱炭素の取り組みを把握し、対話をサポートする「エンゲージメントシート」を作成されたと伺いました。
 
朝野:エンゲージメントシートはお客さまの脱炭素の戦略、技術、実績、ガバナンス体制などを項目別にまとめて可視化することにより、脱炭素の取り組みを体系的に把握することと、これを使ってRMがお客さまと脱炭素化に向けた実のある対話を行うことを目的に作成しました。
 
:多排出企業における脱炭素の取り組みは彼らの事業戦略のど真ん中で、脱炭素化に向けたビジネスモデルの変革は企業の成長力、生き残りにも関係してきます。また、彼らのトランジション戦略は一度策定したら変わらないものではなく、政策・技術の動向や事業環境によって変わる動的なものです。
資金を供給する側の銀行員として、多排出企業の戦略をタイムリーに把握し、彼らの取り組みをしっかり理解することが対話の意義の一つだと考えます。

エンゲージメントシートの作成に携わった朝野さん。勉強会(後述)の講師も務めました
エンゲージメントシート(抜粋)RMへの分かりやすさや利便性を追求しました

大坪:エンゲージメントシートのもう一つの試みとしては、各企業の脱炭素の取り組みを共通のフォーマットを使うことにより並べて比較ができるようになっています。企業の具体的な施策を確認し、サステナブルファイナンスやその他の支援ができないか検討するなど、ビジネス機会を見つけるツールになることを、RMの皆さんに知ってほしいと思っています。
 
――「エンゲージメントシート」を活用してもらうために、多排出産業を担当するRM向けに勉強会を行ったと伺いました。手ごたえや反響はありましたか?
 
朝野:勉強会は、RMが自らエンゲージメントシートを作成・活用することを目指したもので、あわせて今般策定したトランジションタスクフォースルールブック(各活動における手順書)のガイダンスをしました。一方的な説明にならないように、たくさんのRMを指名し、双方向で対話をする形式で行いました。

勉強会の様子。温室効果ガス高排出セクターを担当するRMほか84名が参加しました

大坪:他のRMの生の声を聞いてみたかったのですが、 「RMが一番お客さまのことをよく知っているし、ビジネスにつなげたい」という誇りや気概を皆さんが持っているんだなと、実感しました。「積極的にトランジション関連のビジネスや対話に取り組んでいきたい」という、決意表明のコメントも多く聞かれ、トランジションタスクフォースの方針も伝わってきているように思います。これからも積極的な発信を続けることでその想いに応えたいと思っています。
 
平澤:銀行としての向き合い方として、トランジションに限ったことではないですが、お客さまの施策や技術をお客さまと同レベルで理解しようとすることが重要だと考えています。理解を深めると、お客さまがトランジションしていく姿が見えてくるので、だから銀行も支援するんだと確信し、自信を持つ、それをひたすらやっていく、ということだと思っています。
 
大坪:お客さまと対話し、理解し、適切なファイナンスを出す。それを評価できる銀行員にならないといけない、ということかと思います。お金を貸すことは簡単なことに思えますが、トランジションに資するものかという見極め、この技術はどうなっているのか与信上も説明できるということが今後は一層求められると思います。

銀行員としてあるべき姿を語るお二人

数年後、タスクフォースは解散する?

――最後にお伺いします。今後トランジションに関して、タスクフォースとしてどのように貢献していきたいですか?
 
葛:あくまでもさまざまな取り組みの主役はRMです。お客さまと対話するのはRMで、タスクフォースはサポート役。RM一人ひとりが自らの判断でお客さまのトランジションを支援できるようになれば、サポート役としてのタスクフォースは不要になるかもしれませんね。それと合わせて、このような取り組みがお客さまにどのような価値を提供することにつながるのかということについてもっと具体的に考えて、行内外に示していかないといけないと思っています。
 
大坪: RMとしてビジネスの観点、リレーションの観点を忘れないようにしたいですね。環境問題は、理想が膨れ上がって、現場と乖離することが起きがちだと思います。お客さまとのリレーション強化とビジネス活性化につなげようという意識が無ければ、営業部門の活動としては持続可能性に欠けてしまいます。このことを常に念頭に置いて、お客さまとRMに役立つタスクフォースでありたいです。

タスクフォースの未来を語るメンバー

朝野:日本での脱炭素への移行は産業構造上避けて通れない課題です。トランジション・ファイナンスは国際的な知名度は低く、ウォッシングだという批判もあります。ですが、国もGX債を発行するなど機運が高まっている中で、できることをやっていきたい。また、SBIグループとしての地域金融機関とのリレーションを活用し、私たちが蓄えた知見を地域の産業におけるトランジションに活かしていくことも目標の1つです。
 
平澤:近い将来サステナビリティ関連情報の開示が有価証券報告書の財務情報と同じレベルで求められるようになる、という世の中の流れの中で、RMにとって脱炭素の知識は標準装備となっていく。そうなると葛さんの言うとおり、自分たちの役割が減っていくのではないかなと。ただ、我々タスクフォースも自分たちの知見を高めていくことで、出来るだけ長くRMから頼られる存在でい続けようとすることが、重要かと思います。
今まではお客さまから業界のトランジション情報をヒアリングし勉強して、それを評価し、資金面で支援するという活動が中心でした。これからはさらに視点を多様化するため、経済産業省が示すエネルギー基本計画はどのような背景に基づいているか、金融庁はトランジションにかかる資金をどう調達していこうと考えているか、など、旗振り役である彼らとコミュニケーションを進めてレベルを高めていきたいと考えています。

【編集後記】
タスクフォースの取り組みはチャレンジングな毎日だと思いますが、皆さん同年代の気安さもあるのか、大変さを感じさせないくらい楽しみながら取り組んでいる様子が伺えました。そんなタスクフォースのメンバーから感じるポジティブな空気感が周りに良い影響を与え、お客さまのトランジション支援に繋がることに期待したいと思います。

取材・文・撮影:サイト運営担当

こちらは、SBI新生銀行グループのSBI新生銀行に関する記事です。

SBI新生銀行の「トランジションファイナンス」について、もっと詳しく知りたい方はこちら!👇(SBI新生銀行のサイトへ遷移します。)


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