EV車のリースで実現する安全とエコ!を目指す新生コベルコリースの挑戦
SBI新生銀行グループでは、中期経営計画の基本戦略の一つである「事業を通じたサステナビリティの実現」において、環境・社会課題解決へ向けた金融機能提供を目指しています。
今回登場するのは、昭和リースと株式会社神戸製鋼所(以下、神戸製鋼所)の共同出資会社である新生コベルコリースで取締役を務める増田敦彦さんです。鉄鋼一筋のキャリアから、2020年にリース業界に身を転じて以来、SDGsなど社会的課題の解決につながる新規商材の開拓に邁進しています。
この4年で増田さんが実現したさまざまなリース案件の中から、騒音や排気ガスの発生がなく、従業員の安全性向上につながる工場内の移動手段として、神戸製鋼所へのリース契約が決まった一人乗りEV車「コムス」の取り組みを中心に話を聞きました。
専門分野を離れてのセカンドキャリアで、果敢にトライし続ける、増田さんの開拓者魂も必見です。
コロナ禍で持続的な成長を追求するべく、自ら新規商材開拓に打って出た
──まずは、新生コベルコリースの事業構造と、新規商材を開拓する意味について教えてください。
増田:私が所属する新生コベルコリースは、営業品目の7割をコベルコ建機株式会社の販売金融、残り3割を私が管掌している神戸製鋼所、およびそのグループ会社や協力会企業向けの自動車やパソコン、複合機のリースが占めています。つまり、建設機械業界の業績が収益に直結しやすい事業構造です。
IFRS(国際会計基準)の進展による顧客のリース離れや、レンタル・サブスクリプションなどの顧客の利用手段の多様化で、リース業界を取り巻く経営環境は厳しく、建設機械に続く事業体を新たに模索、構築してゆかねばなりません。
現在の業務に携わり始めてからコロナ禍でのテレワーク中に、自社の現状とリースや金融について学ぶ傍ら、「会社のために今何をすべきなのか、自分に何ができるのか」を真剣に考えました。その結果、「リース」というスキームは業界の垣根を越えてどこにでも浸透していけるシステムだなと改めて気づきました。
また、経済的価値と社会的価値とを両立する世の中の機運の高まりを受け、社会的付加価値をつけたリースができれば、世に打って出ることができるとも考えました。それで、新規商材の開拓に取り組んだのです。
――増田さんは、鉄鋼領域で長くキャリアを積んでこられました。専門外の領域で、苦労もあったのではないでしょうか。
増田:おっしゃるとおり、私は1989年に神戸製鋼所入社し、16年にわたって鉄鋼の営業に携わりました。うち2年間は組合支部の書記長も兼任しました。その後、本社の機材調達部で国内・海外調達に15年携わり、2020年に新生コベルコリースの前身である神鋼リース株式会社へ出向転籍になりました。
鉄鋼一筋でしたから、金融の知識はほぼゼロからのスタートです。未知の領域への転身で驚きや戸惑いもありましたが、思い悩んでいるだけでは何も始まりません。新しい領域にチャレンジできる機会を得たと思って、前向きに試行錯誤しました。くよくよするよりも、そのほうが楽しいじゃないですか。
――それで、みずからトップ営業に乗り出したわけですね。
増田:何か案件をひらめいたとしても、海のものとも山のものともつかない段階で、目の前の仕事に追われている部下を巻き込むことはできません。まずは、自分の過去の人脈を活かして道筋をつけるのが最善だと思ってやってきました。
それでも何か感じるものがあるのか、最近は社内にも私の仕事に興味を持ってくれる人や、みずから新規商材を売り込んできてくれる人が少しずつ出てきています。会社を盛り立てていこうというモチベーションに共感していただけるのはとてもうれしいことです。
――これまでに、増田さんが実現したリース商材について教えていただけますか。
増田:いずれもリース商材の販売元と業務提携をし、鉄鋼生産設備のメンテナンス付きリースのほか、トラックの衝突・巻き込み警報システムや太陽光パネル、AEDなど、幅広く商材化が実現しました。また収益性を充実させるために、必ず販売元と業務提携書を締結し、紹介手数料が得られる仕組みを構築しています。
グリーンエナジー、自動化、安全管理など、SDGsやカーボンニュートラルといった分野でも思いつくものに付加価値をつけて商材化することにこだわっています。
従業員の安全管理や環境面への課題から商材を検討
――4年間で手掛けた商材のうちの一つが、1人乗りEV車「コムス」だとお聞きしました。「コムス」の提案に至るきっかけを教えていただけますか。
増田:神戸製鋼所の神戸線条工場は、神戸市の六甲アイランドに隣接した埋め立て地で、阪神甲子園球場約28個分もの広さのある大きな工場です。そのため従業員は工場内の移動にバイクを使っています。工場内を徒歩で移動するのは現実的ではないからです。
しかしバイクには転倒事故がつきもので、特に雨天は要注意。従業員の移動手段としての安全管理には、かねてより課題がありました。お隣の加古川製鉄所もかつては原付バイクを移動手段に使っていましたが、転倒事故をきっかけに廉価な乗用車に置き換わりました。しかし神戸線条工場では乗用車に置き換える程の駐車スペースはなく、やむなく原付バイクを移動手段としてきました。
そこで、自動車とバイクの間にニッチな需要があるのではないかと考え、またカーボンニュートラルの潮流の中でCO2を出さないEV車が注目を浴びていたため、最初は海外メーカーのミニEV車のリース化を試みました。価格は軽自動車の車両価格よりも断然安くコスト優位性がありましたが、メンテナンス部品が海外規格のため、国内での調達は難しく、整備を入れたメンテナンスパッケージとしての提供には無理があり、残念ながら頓挫しました。しかし三菱オートリース株式会社(以下、三菱オートリース)さんからトヨタ車体株式会社(以下、トヨタ車体)さんが製造している一人乗りEV車「コムス」の存在を教えていただき、再チャレンジしたというわけです。
「コムス」は100%電気で動き、騒音や排気ガスの心配がありません。安定・安全な運用が可能で、環境にも従業員にも工場にも優しいのが特徴といえます。
――国内で「コムス」を使っている事業者の例はあったのでしょうか。
増田:他社の製鉄所で使用していることがわかり、人づてに頼んですぐさま現地を視察しました。製鉄所周辺は鉄粉だらけで車もバイクもすぐに錆びてしまうものですが、「コムス」は雨ざらしで駐車しているのに全く錆びていない。聞くと、ボディーが樹脂加工されていて丈夫とのこと。現場から戻った車体は事務所にある家庭用電源で充電・管理されていて、これは神戸製鋼所やKOBELCOグループとも親和性が高いと感じました。
導入するとなると、クリアしなければならないのが、従業員の皆さんの安全を担保するためのメンテナンスとその供給体制です。この点は、幸いにも弊社とカーリースにおいて業務提携を行い在籍出向もしていただいている三菱オートリースさんが既にコムス整備の供給体制を持っておられたおかげで、定期メンテナンスを含むリースパッケージ商品として売り出せることになりました。
――三菱オートリースによるメンテナンスには、どんなメリットがありますか。
増田:三菱オートリースは車両の供給はもちろんのこと、神戸製鋼所とKOBELCOグループの国内すべての拠点にメンテナンスサービスの提供が可能です。また今回の「コムス」については、定期点検時に、車の引取りからメンテナンス後の納入まですべてお任せできる利便性の高いサービスにより、仕事に追われる法人顧客のニーズに応えられるのも魅力です。これで、一番ネックであったメンテナンス均一品質の全国提供と、安全面などのかねてからの課題が一気に解決できることになりました。私が手掛けたこの案件も、構想に1年、導入に2年、足掛け3年かかりましたが、今年の9月からようやく神戸製鋼所の神戸線条工場で稼働が始まりました。
社会貢献につながる分野で、さらなる飛躍を目指したい
増田:バイクやガソリン車から「コムス」への切り替えは、鉄鋼業界で働く人たちの安全を守ることに加え、環境負荷軽減にもなります。重工業や自動車業界にとっても持続可能な社会を目指すための取り組みは課題です。社会的責任を果たす対策にもつながると考えています。
SDGsへの対応がビジネスにおける取引の条件になることもある今、環境課題や社会課題に配慮せず事業を継続することはできません。「自社だけが得をすればいい」という考えは通用せず、渋沢栄一の「道徳経済合一」の考え方同様、経済的価値と社会的価値の両立が昨今の経営方針において急速に重要性を増しています。
今回の連携は、金額的には小さな商材ですが、世間への宣伝効果はとても大きい。当社プレゼンスを高められるそんなプロジェクトだと自負しています。
――バイクより大きく、4輪車より小さい商材の潜在的なニーズは大きい気がします。サステナブルでありながら、大きなビジネスチャンスを秘めているという意味でも、理想的な案件ですね。
増田:そうですね。神戸製鋼所やKOBELCOグループで受け入れられれば、大手発電所や造船メーカー、ゼネコンの都市部建築現場など、他の規模の大きな産業への横展開もありえます。車を絡めた商売のチャネルを確保しておくことで、EV化に伴う充電器や蓄電池のリース、自動運転などの領域へビジネスを広げていける可能性も十分にあるでしょう。
――お聞きしているだけでワクワクします。最後に、増田さんの今後の展望を聞かせてください。
増田:リースのスキームの展開先は無限にありますが、私が注目しているのは、世界に誇れる日本の資源である観光、農林水産業などです。例えば、観光業へのサービス提供をするオペレーション企業へのアセットリースは観光立国日本から見ると今後も成長市場がたくさんあると期待できます。
幸いに当社には神鋼リース時代から培ってきた良質なノウハウがあり、昭和リースのアセットビジネスのシステム、ノウハウを合わせることで、新境地での飛躍と貢献を目指していけると思います。