コンタクトセンターのリモート化で銀行の新しい働き方が見えた
コロナ禍を契機として、あらゆる業界でリモートワークの導入が進みました。しかし、銀行のコンタクトセンターでは、顧客の個人情報を取り扱うこと、そして顧客対応の品質低下が懸念されることなどから、他業界・部署に比べてリモート化の壁は高いと考えられてきました。
SBI新生銀行グループの顧客対応窓口であるコンタクトセンターでは、コロナ以前からの取り組みを昇華する形でリモート環境を整備。電話による顧客対応はもちろん、OJT*もリモートで行い、2022年3月には在宅率5割を達成しました。感染症拡大、テロ、災害といった万が一の事態にも、安定して事業を継続できる体制づくりと、オペレーター(社内での呼称は「CSR」=顧客サービス担当; Customer Service Representative)がより柔軟に働ける環境づくりの両方を実現しています。
今回は、コンタクトセンターのオンライン化を主導したSV(スーパーバイザー)の井上さんと永松さんに、リモートワーク導入の経緯や成果、今後について話を聞きました。
*OJTとは、On the Job Training(オンザジョブトレーニング)の略で、職場の上司や先輩が、部下や後輩に対して、実際の仕事を通じて指導し、知識、技術などを身に付けさせる教育方法のことを指しています。
災害などに備えるBCP(事業継続計画)のための取り組みが、コロナ禍で役立った
――現在、一般のオペレーターは、原則として月に数回の出社だそうですね。
井上:はい。私たちSVは、面談などもあってもう少し出社頻度は高めですが、オペレーターは月に1-2回(取材当時)の出社で済んでいます。当初は「出社勤務からの切り替えが困難なのではないか」と懸念していましたが、今では在宅を希望する人がほとんど。コンタクトセンターのスタッフは出社するのが大前提だったので、働き方は大きく変わりました。私たちがいる福岡コンタクトセンターも、東京の新川にあるコンタクトセンターも同様です。
永松:私自身、育休からリモートワークで復帰して恩恵を受けているので、在宅の働きやすさはよくわかります。通勤がなくなることで、家事の効率と疲れ具合がまったく違いますから…。
――SBI新生銀行の社内に、リモートワークが根付いているのがよくわかります。取り組みがスタートしたのは、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年からでしたね。
井上:そうです。ただ、コロナが蔓延する1年くらい前から、拠点にとらわれずに安定して業務を回せる体制作りや業務効率化を進めるために新たなツールを導入していて、そのツールをうまく活用することができました。
――それは、どんなツールだったのですか?
井上:簡単にエスカレーション(応援要請)やチャットでの対話が行え、お客さまとの会話を自動でテキスト化するツールです。
コンタクトセンターでは、顧客対応で困ったときや上司の承認が欲しいとき、上司にエスカレーションをします。スムーズなエスカレーションは顧客満足度を維持する上で非常に重要ですが、以前は上司と顔を合わせて口頭で行うのが当然だったため、リモートでの対応の仕方は大きな課題でした。その解決策として新たなツールを導入し、2020年の初めはその浸透を図っている段階だったのです。
その後、すぐにコロナ禍に入り、行内では可能な職種からリモートワークが取り入れられるようになり、コンタクトセンターでも導入を推進することになりました。前述のツールだけでなく、お客さまとの通話中でもSVと会話できる内線通話システムや、チーム内チャット・ファイル共有・リモート会議を提供するMicrosoft 365のグループツール「Microsoft Teams」などの導入が一気に進みましたね。
――まずはツール面から環境を整えたわけですね。
井上:同時に、パソコンのモニターやノートPC、スマホなどの機器を在宅勤務するスタッフの自宅に送り、みんなが同じように電話を取れる環境を作るのも急務でしたね。そういった地道な作業もSVが主導して、結構な作業でした(笑)。
でも、役員など上層部主体ではなく、私たち現場が感じる課題感に沿って移行を進めることができたので、実際の業務に即した体制をスムーズに作ることができました。
永松:私が2021年4月に育児休暇から復帰した際には、もうすっかりリモートで勤務できる体制が確立されていて…。ネットリテラシーには個人差がありますし、機器やシステムを整えた後もしばらくは大変だったんじゃないですか?
井上:そうなんですよ。それまでは、出社すればネットにつながったパソコンが会社のデスクにあって、電源を入れればそのままシステムにつながりましたが、リモートワークではまずオペレーター一人ひとりにその環境を作ってもらう必要があります。
しばらくは「ネットにつながらない」「PCの画面配置がおかしい」「セキュリティシステムのパスワード変更ができない」といった訴えが相次いで大変でした。
そうした声に対応するために、いつでも確認できるリモートワーク全般に関するマニュアルや、トラブルシューティングマニュアルを作ったほか、「Microsoft Teams」で画面を共有して操作案内をしたり、出社時にオフィス内の離れた場所で在宅を想定したトレーニングを実施したりし、我々もオペレーターもまずはリモート環境に慣れることを第一目標としました。
テキストコミュニケーションにも工夫を凝らし、メンタル面をサポート
――在宅は自由がきく反面、孤独を感じる人もいそうです。メンタル面のケアはどうしていましたか?
井上:リモート導入時にはポジティブな意見が目立ち、気持ちの面では意外とすんなり移行できた印象だったのですが、いざ始まってからしばらく経つと、在宅勤務のストレスを感じるスタッフも出てきました。特に一人暮らしの方は、朝からずっと一人で電話対応をして、チャットで雑談する暇もないまま、気づいたらもう夕方…ということも。
リモートワークがメインになった2年目には、出社組・在宅組全体でのカジュアルな座談会の開催や、出社時のSVとの面談で、できるだけ長くコミュニケーションをとるといった対策をして、コンタクトセンター全体の目標管理と同じくらい、オペレーターのメンタルケアに注力しました。
――チャットなどのテキストコミュニケーションが中心だと、思いがけないすれ違いが生まれたりもしますよね。
永松:文字だけだとトーンやニュアンスといった非言語的な部分が伝わりにくいので、何気ない返信が冷たく感じられることがありますよね。私もチャットではとにかく絵文字を多用して、やわらかい印象で気持ちを伝えるようにしています。誤解が生じる可能性がある場合は、電話を使って直接話す温度感も大切です。
井上:テキスト主体になってから、「ありがとう」「お疲れ様でした」といった感謝やねぎらいの言葉を意識して使うようになりました。それでも、読み方次第で伝わり方が変わりそうな話題は、急ぎでなければ出社時に顔を合わせて話をしています。離れて働いていても、チーム感は大切ですね。
――OJTもオンラインで行っていると聞きました。
永松:リモートへの切り替えは、自立されているベテランのオペレーターから順次導入していって、既存のオペレーターが業務範囲を広げるためのOJTへと拡大していきました。私もOJTを担当しましたが、オペレーター用のトークスクリプトやマニュアルを現場のリアルな対応に即して作ってもらっていることもあって、とても進めやすかったです。
現在は、新人オペレーターは対面でのOJTを基本として、状況に応じてリモートに切り替えています。リモート環境が整ったおかげで、東京と福岡という物理的に離れたコンタクトセンターの間でOJTの担当者を融通し合ったり、福岡の上司が東京のスタッフを管轄したりと、柔軟に対応できるようになりました。東京と福岡のコンタクトセンターがひとつになれたのも、リモートワーク推進の大きな恩恵のひとつです。
自分らしく働くための選択肢として、リモートワークを活用してほしい
――リモートワークになって、数値的な目標に影響はなかったですか?
井上:私たちは、1日の受電件数や、お客さまに電話対応を評価していただくアンケートの点数などを目標数値として持っています。リモートワークになると、顧客対応の電話の効率や質が落ちるのじゃないかという懸念がありましたが、結果的に出社時とほとんど変わりませんでした。
永松:以前から、オペレーターの勤務中は「対応中」「離席中」のように、ステータスをシステム上に表示し、対応データも取得するルールなので、リモートワークになっても勤怠の面でも大きな問題は起こりにくいですね。どのような状況か気になった場合は、声がけしてフォローするよう心がけています。
――最後に、今後の展望を聞かせてください。
井上: 今後もコロナや周辺環境の変化に応じた、多様性のある働き方が必要になると思います。出社でもリモートワークでも、みんなが心地良く働ける職場にしたいです。
永松:リモートワークは、働き方のひとつの選択肢ですが、介護や育児などのハードルがあっても、在宅なら仕事をあきらめずに済む人も多いのではないでしょうか。働きたい人がSBI新生銀行なら働き続けられるといった、新しい価値を作っていけるといいですね。
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