ダイバーシティ&インクルージョンの最前線~さまざまな特性を踏まえた取り組みとは?
SBI新生銀行グループにおけるダイバーシティ推進の一丁目一番地として、「女性活躍」にフォーカスした取り組みがスタートしたのは2018年のこと。グループ人事部内にダイバーシティ推進室が設置され、グループ女性活躍推進委員会による女性人材育成プログラムが走り出しました。
現在では、ジェンダーに限らず多様な人材が自分らしく輝ける組織の実現に向け、ダイバーシティ推進室を事務局とするグループD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)委員会がグループの活動を牽引するとともに、D&Iに関する組織特有の課題についてD&I組織別部会が取り組む体制に強化され、連携を図りながら推進しています。
今回ご紹介するSBI新生銀行のリテールD&I部会は、SBI新生銀行グループ全体の旗振り役であるグループD&I委員会と連携しながら、自組織の課題に取り組むD&I組織別部会のひとつです。銀行の個人のお客さま向けビジネスに取り組む組織における特有のD&I課題を吸い上げ、組織にフィットした施策の検討・実施、風土醸成を早期から実践してきた、ダイバーシティ推進のパイオニアとして活動しています。
D&I組織別部会を代表し、リテールD&I部会の最前線で活動する3名に話を聞きました。
組織のD&I課題に対応するため、柔軟にプロジェクトを改編
――リテールD&I部会の大元となるプロジェクトは、2020年に立ち上げられたそうですね。
小河原:2020年7月に、リテール女性活躍推進プロジェクトとして、銀行の個人向けビジネス部署内での活動を開始しました。2019年からグループ女性活躍推進委員を拝命し、活動する中で、所属する組織の特性を踏まえた銀行リテール内での取り組みと合わせて実行することが必要であると感じました。
女性活躍推進については、グループの施策と役割を棲み分けして、銀行リテール内の女性管理職比率を向上させるべく数値目標を設定したほか、次世代のリーダーとして期待されるメンバーに向けて研修も実施。また、組織横断の取り組みとしては、直接の部下ではない女性スタッフのスポンサー役員としてキャリアの相談を受けたりしていました。
しかし、個人のお客さまのための営業部門も抱える銀行リテールは、お客さま目線で多様なニーズにお応えするべく適応してきたことにより、多様な雇用形態の方々がさまざまな働き方をする部署であるため、女性活躍だけにフォーカスした取り組みをすることに対して違和感があるとの声が大きくなっていきました。
そこで、2022年4月にリテールダイバーシティ推進プロジェクト、9月にはグループの委員会の改組を受けてリテールD&I部会へとリニューアルしました。
――グループの活動を率先して推進するべく、自組織の特徴を踏まえて最適な形を模索してきたのですね。
小河原:銀行全体でいうと女性の割合はだいたい4割程ですが、銀行リテールに限っては5割を超えます。これは、銀行リテールが「お客さまのニーズに応える」ことをベースとした組織であり、その組織体制に適応してきた結果であると思います。
例えば、地方への出店や休日営業の拡大、顧客対応窓口であるコンタクトセンターの設置などは、お客さまのニーズを踏まえた体制づくりの代表例で、それぞれの現場では職制や業務を限定した社員が多く活躍しています。
具体的には転勤を伴わない地域を限定した勤務や、コンタクトセンターやオペレーション担当部署などでは業務の内容を限定した社員が多く在籍するなど、さまざまな働き方が可能となっており、プライベートとの両立もしやすいこともあり、多くの女性に活躍いただいています。
このような多様な雇用形態の社員は、いわゆる標準的な「正社員」だけを念頭に置いたキャリアの在り方にはあてはまらないことが多いため、リアルな声を踏まえたダイバーシティの取り組みによる改善が必要であると考えるようになりました。長田さんがマネージャーを務めるコンタクトセンターは特に女性が多く、職制や働き方が多様な部署ですよね。
長田:そうですね。限定的な働き方が自身の都合に合っていて良しとする人がいる一方、「キャリアを形成したいけど、キャリアパスが見えない」「仕事が固定化されていてモチベーションが上がらない」といった声もあり、一括りの施策では補いきれない部分がありました。
女性活躍やダイバーシティといっても、自分事になりにくい部署だったと思います。かく言う私自身、2022年6月にプロジェクトに参画するまでは、遠巻きに取り組みを見ていた一人でした。プロジェクトの一員になってみて初めて、みんながより良く働くための取り組みであることを実感し、やりがいを感じています。
大岩:私も、2022年の終わりにプロジェクトに参画した時点では「ダイバーシティって何?」という状態でした(笑)。プロジェクトに参画し、自分の所属する部を客観的に見てみると、当時の私に近い状態の方がまだまだ多いと感じます。
ダイバーシティが示すものや、取り組みが目指すゴールなどを全員が十分に理解できているとはいえず、まだまだ周知が必要だと感じています。
部会、および各部での活動により、組織の隅々までD&Iの浸透を図る
――2023年度上期の活動についてお聞かせください。
大岩:部会全体としての活動のひとつは、プロジェクト活動通信でのコラムのリレー連載ですね。2020年のプロジェクト発足から月1ペースで続いている活動を受け継ぐ形で、リテール内で活躍している方にダイバーシティに関するコラム執筆を依頼しています。
ダイバーシティに関連していれば内容は問わないので、育児と仕事の両立について書く方もいれば、多様性に対するご自身の考えを書く方も。こうした発信が誰かの頭の片隅に残り、同じ状況に直面したときのヒントになれば良いなと思っています。
小河原:D&I部会主催で、手話コミュニケーションを体験するゼミも2回開催しましたね。
これまでいろいろな取り組みをしてきましたが、参加者の方から直接お礼のメールをいただいたのは初めてでした。店舗での接客に役立ったり、コミュニケーションの幅が広がったりするきっかけになったようです。
実施を耳にされたグループ内の方からも、次の機会には参加したいとメッセージをいただきました。地道なテーマでも幅広いニーズがあることを実感した施策でした。その後、グループ全体の企画として3回目を実施するに至り、上期最大の成功事例となりました。
――長田さん、大岩さん、それぞれの部での活動はいかがでしたか?
長田:メンバーの入れ替えが多い部署でもあるので、部内の発行物でダイバーシティの取り組みを発信して浸透を図りました。そのかいあってか、育休を取る男性が増えています。
また、それに伴って、休職する方の業務の可視化と分担が進み、属人化から脱却して業務の効率化につながる場面が出てきました。これはうれしい副次的効果でしたね。
これまで何気なくあった「抜けた人の分だけ負担が増える」「自分が休むせいでみんなに迷惑をかける」という意識が、「組織の新陳代謝が進んで、みんなが成長していく機会になる」という意識に変わっていくように働きかけていきたいです。
大岩:私の所属する部署は、コロナ禍の間は基本的にリモートワークだったので、チャットで意見交換をする機会を設け、部内のメンバーからも積極的に意見や情報を発信できる風土づくりに取り組みました。過去の自身の体験をシェアしてくださる方も多く、身近にD&Iを感じることができたのが良かったですね。個々の考え方や人となりが垣間見える貴重な機会にもなりました。
リテールのD&Iもネクストステージへ。より組織の改善に資する活動を目指す
――上期の活動を踏まえて、下期にやってみたいことについてお聞きかせください。
長田:定着しつつある良い風土をさらに醸成することが第一の目標ですね。併せて、スタッフ一人ひとりのキャリアパスやワークライフバランスの悩みを吸い上げて組織への提言につなげ、具体的な解決策を提示できるようにしたいと思っています。
大岩:プロジェクトに参加して、組織を横断したつながりができ、自分のキャリアの糧になりました。私が感じたプロジェクトのメリットを草の根活動で周知し、いろいろな方に関わっていただける部会に育てることで、D&Iに対する組織内の温度差を解消していきたいですね。
手話コミュニケーション講座の後続企画として、女性の離職原因のひとつである介護について取り上げる予定なので、万全な準備をして臨むつもりです。
小河原:銀行リテール全体についてお話しすると、グル―プ全体で進める委員会がグループ女性活躍推進委員会からグループD&I委員会に改組したことを受けて、「組織特有のD&Iの課題を把握すること」「具体的な改善アクションを検討・実行すること」「リテールでの取り組みをボトムアップで委員会に伝え、組織全体の改善に資すること」の3つが活動の軸になると考えています。
手話や介護のようなイベント的な取り組みと併せて、次はより踏み込んだ組織の課題に着手していくフェーズになるでしょう。多様な人材が支える銀行リテールにおいては人材の定着を重要課題と捉え、有効な施策の実行とともに、必要な提言を行い実効性ある活動をしていきたいですね。
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