新生ソーシャルローンの先に子どもと女性の未来が見えた
借入金を活用した企業・事業の買収を扱っているスペシャルティファイナンス部のLBOチームは、企業のM&Aを対象にしているため、当初は、「新生ソーシャルローンと結び付けることのハードルは高いのではないか」と、行内でもお客さまにも思われてきたといいます。
M&Aファイナンス手法の1つであるLBO(Leveraged Buyout)ローンは、PEファンド(複数の投資家から集めた資金を基に企業等へ投資を行い、企業価値を高めた上で、株式の売却によってリターンを得ることを目的とする投資ファンドのこと)等に対し、企業を買収するための資金を提供するもので、教育や福祉といった社会的な課題解決に直接充当されるものではないからです。
しかし、今回ご紹介するのは、「LBOのその先」にある事業の社会性が評価され、LBOローンとして初めて新生ソーシャルローンの提供に至った事例です。従来の枠組みを越えた評価の背景や、この事例を契機とした今後の取り組みについて、案件を主導した佐藤さん、新出さんに聞きました。
社会問題や環境課題と直接結び付きにくいLBOローン。「保育事業ならいけるのでは?」がきっかけに
――これまで、業務で新生ソーシャルローンを意識することはありましたか?
佐藤:SBI新生銀行が金融ソリューションを通じた社会問題、環境課題の解決を掲げていることから、もちろん意識はしていました。2020年に設立されたサステナブルインパクト推進部がよく情報発信をしてくれるので、サステナビリティについて学ぶ機会も多くあります。
ただ、私たちのチームでは企業買収のためのローンを提供しているので、提供した資金がそのまま社会的課題の解決につながるというイメージを持ちづらい部分がありました。ですので、正直なところ、担当する案件で新生ソーシャルローンの適用を考える機会はこれまでほぼなかったですね。
新出:LBOローン自体にはソーシャル(社会)色もグリーン(環境)色もないので、資金使途が社会課題の解決や軽減に限られている新生ソーシャルローンでの提供はなかなか考えにくいですよね。
佐藤:そうなんですよ。今回の案件を担当するまでは、LBOローンにおいて新生ソーシャルローンの評価をするのは難しいと思っていました。
――なるほど。今回の案件は、LBOチームからサステナブルインパクト評価室に上げられたと聞いています。従来の案件とはどこが違ったのでしょう。
佐藤:今回の案件は、保育事業を展開する株式会社WITHホールディングス(以下、WITHホールディングス)様が、同業の株式会社アンジェリカ(以下、アンジェリカ)様を買収する資金として当行がLBOローンを提供したものです。
人手不足の解消に向けて女性活躍の必要性が叫ばれる一方、待機児童問題が解消されず女性の社会復帰の壁となっていることや、少子化が進行する中で保育の質向上が求められていること、労働に見合わない待遇で保育士が不足していることなど、保育現場にさまざまな社会的課題があることは私たちもよく知っています。
WITHホールディングス様とアンジェリカ様は、それぞれが信念を持った特色ある保育を行っており、「子ども」を対象とした「必要不可欠なサービスへのアクセス」、「女性」および「仕事と子育てを両立する人々」を対象とした「社会経済的向上およびエンパワーメント」の提供という事業の社会的意義があります。その両社が一緒になることによって、事業基盤拡大による経営の安定や、保育施設の運営に係るノウハウや知見等を相互に補完し、社会的意義が強まる可能性があります。であれば、当行からの資金提供は、間接的ながら、保育にまつわる社会的課題の解決に寄与できる、社会にポジティブなインパクトを与えることに貢献するのではないかと考えました。
新出:もちろん、案件クロージングまでの時間的な制約というハードルはありました。しかしながら、本案件の買い手であるWITHホールディングス様、そしてスポンサーであるPEファンドのティーキャピタルパートナーズ株式会社(以下、ティーキャピタルパートナーズ)様と当行はすでにお付き合いがあったんです。
M&Aでは、経営陣やキーマンとなる役員、従業員にインタビューを行って経営課題やリスクを調査する必要がありますが、これまでの取引姿勢や、案件の初期段階からの対応を評価していただいたおかげで、新生ソーシャルローンとしての案件評価のための作業についてもスムーズに対応いただくことができました。これまでの取引を通じてティーキャピタルパートナーズ様と信頼関係が構築されていたことも、LBOローンを新生ソーシャルローンとして提供できた大きな要因でしたね。
プライベートは一児の父。
保育問題は自分事化しやすかった
――パパの顔を持つお二人にとって、保育の問題は比較的身近で、自分事化しやすい課題だったのかもしれませんね。
佐藤:そうですね。銀行員としての目線に加え、自分に子どもがいる分、親としての目線から、保育にまつわる問題への関心は高いほうだと思います。
新出:我が家はちょうど今、保育園探しをしているので、仕事と育児を両立する上で保育園の存在は欠かせないこと、保育の内容や保育士の勤務環境は極めて重要であることを日々感じているところです。WITHホールディングス様とアンジェリカ様の保育園では絵本の読み聞かせや貸し出し、ネイティブスピーカーによる英語教育、音楽教育、食育などに力を入れており、一人の父親として魅力的だと思いました。
また、保育士の適切な労務管理も進められています。このことも、本案件が評価されたポイントのひとつでした。保育士さんが安定した環境で働けていれば、子どもが健康に、安全に生活でき、親は安心して働くことができます。
佐藤:本案件に関わる前からですが、実はうちの子どもがWITHホールディングス様の保育園に通っているんです。
よくよく検討した上で入れた保育園でしたから、『WITHに関わる全ての人が素敵な人生を送るためにこの組織は存在する』という理念に基づく保育が広がっていくことは、父親としても応援したい気持ちを持っています。実際、保育士さんたちもみんな落ち着いていて、とても良い雰囲気なんですよ。
――新生ソーシャルローンの適用について、ティーキャピタルパートナーズ様の反応はどうでしたか?
佐藤:企業活動に対する新生ソーシャルローンの適用は、事業やプロジェクトの社会性が客観的に評価された証であり、スポンサーにとってはステークホルダーからの信頼を得やすくなる、ESG投資への姿勢を広くアピールできるなどのメリットがあります。
元々、ESGへの取り組みを指針とした投資の強化を検討されていた背景もあって、最初に相談した際にはティーキャピタルパートナーズ様から前向きなお返事をいただくことができたと思っています。
新出:積極的に新生ソーシャルローンを適用することで、私たちのサステナビリティへの姿勢もいろいろな方々に知っていただくことができます。ティーキャピタルパートナーズ様にとってはもちろん、私たちにとっても大きな意味がある、Win-Winの案件だったのではないかと思います。
案件に潜む、社会的課題に目を向けて
新たな価値基準での評価を増やしたい
――今回の案件を通して、感じたことがあれば教えてください。
新出:社会に対してポジティブなインパクトを生み出す事業に、従来の枠組みを越えた価値基準で資金提供できれば、ソーシャルビジネスをより活性化させることができます。
今後は視点を広げて、「新生ソーシャルローン」や「新生グリーンローン」といった評価ができそうな案件は、積極的にサステナブルインパクト評価室に上げていくつもりです。
佐藤:正直なところ、今回の案件はかなり条件に恵まれていました。これがゼロから関係を構築していくようなまっさらな案件の場合は少しハードルが上がると思います。
今回の案件で、私たちが関わる案件にソーシャル性の強いものがあると再認識できたので、今後は案件との向き合い方や見る目を少し変えていく必要があると考えています。案件の環境や社会に対する直接あるいは間接的な影響をできるだけ敏感に察知して、世の中にある課題の解決に向けたファイナンスをひとつでも多く提供していきたいですね。
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