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事業承継に至るまでの決断から実行までの道のり(Vol.1)

SBI新生銀行グループの投資専門会社である新生事業承継は、後継者不足に悩む経営者に寄り添い、事業承継をより円滑に実現させる支援に取り組んでいます。ショッピングバッグ(ショッパー)などの企画・制作・販売を行っている株式会社エス・ピーパックの藤原会長も、後継者問題に悩んでいたお一人です。
藤原会長は新生事業承継を承継相手として、2023年1月に株式譲渡を実施しました。新生事業承継は、エス・ピーパックの経営体制や収益基盤を強化した後、同社の持続的発展に寄与しうる企業への株式再譲渡を予定しています。
 
創業オーナーにとって事業承継とは、みずからが一から立ち上げ育ててきた事業を次世代へ引き継ぐ、未来へと希望をつなぐ手段である一方、不安や寂しさといった複雑な感情を伴う出来事でもあります。
 
株式譲渡の実行から約半年を経た今、創業オーナーである藤原会長に、事業承継を決断するまでの道のりや、新生事業承継を相手として選んだ背景について、お話を伺いました。

語るひと(敬称略):
株式会社エス・ピーパック 取締役会長 藤原達郎(前オーナー)
新生事業承継 代表取締役 塚越公志(インタビュアー)


たどりついた第三者承継という選択と新生事業承継との出会い

塚越さん(以下、敬称略):
藤原さんは創業オーナーとしてエス・ピーパックを率いてこられましたが、1995年の創業から現在まで、どのような道のりを歩んでこられたのでしょうか?
 
藤原さん(以下、敬称略):
大学を出てすぐの就職でショッパー業界へと身を投じましたが、20年程過ぎた頃、バブル崩壊が起こりました。私がその頃勤めていた会社も業績が悪化し、当時はまさに最悪の状態でした。しかし、かねてより、いつかは自分の力で商売をしたいという気持ちもありまして、「今が最悪なら、あとは上るだけじゃないか」と、思い切って独立し、エス・ピーパックを立ち上げました。始めて4年くらいは、バブル崩壊の余波が残っていましたが、やがて我々の主要顧客であるアパレル業界が息を吹き返し、業績が上向き始めました。
 
その上昇気流にうまく乗ることができたのが、今から思うと大きかったですね。その後もリーマンショックや東日本大震災など不測の事態はありましたが、2017年頃までは売上が落ちることは一度もなく、地道ながらも成長を続けることができました。

会社を継続的に成長させ、創業オーナーとして辣腕を振るってきた藤原さん

塚越:
売上を落とさず、30年近く毎年成長し続けてきたというのもものすごいことですよね。そんな藤原さんが事業承継を考えるようになったのは、どのような理由からだったのですか?
 
藤原:
会社の経営は実におもしろいものですから、無我夢中でずっとやってきました。ところが、私のような創業社長は、経営も資金繰りも一人で見なくてはいけません。60歳を過ぎた頃、さすがにいつまでも続けられるものではないと感じるようになりました。
 
それでも、経営者としては社員の仕事場を守らなくてはなりません。ですから、株式上場なども含め、いろいろな方法を検討しました。そんな中で最終的にたどりついたのが第三者承継でした。
 
塚越:
組織のトップの仕事は、「決断」と「実行」だと思います。ただ、それを実践できる人材を社内や親族に見いだすことは、個別のさまざまな事情も相まって、実際にはなかなか難しいのかもしれませんね。

企業文化は時代とともに変わりゆくもの

塚越:
後継者を探す場合、親族内や社内で考えられるオーナーが多いですが、藤原さんの場合は第三者承継を選択されました。承継にあたって重視された点、気にしていたポイントはありましたか?
 
藤原:
私には娘が2人いますが、親族を後継者にすることは元々考えていませんでした。では、自分が引退した後、この会社の経営はどうなるのか。企画力・営業力を強みに順調に成長を続けていて、良き企業文化もある。そんな会社をさらに発展させていくには誰に経営を託すのがよいのか、考え悩み抜き、試行錯誤した時期もありました。しかしながら、オーナー経営者が担うことになる重責や負担を知っているだけに、社内や身内など近しい存在にそれを背負わせることはやはり忍びなかった。そこから第三者承継という選択肢が浮かんできました。
 
細かい望みまであれこれ言い始めたらきりがないですし、事業承継をした後は、新しい体制において、自分はあまりしゃしゃり出るべきではないという思いがあります。取締役として残っているにしてもです。
 
塚越:
創業者として、また会社を成長させてきた経営者として、ご自身が重視されてきた価値観や企業文化をできるだけ維持してほしいというお気持ちは、多少なりともございませんか。
 
藤原:
私は古いタイプの人間だと自覚していますし、これまでの自分のやり方に拘り続けることは、会社にとって悪い影響を及ぼすことにつながりかねないとも思っています。時代は変わっていくものですから、企業も変えるべきところは変えていけばいい。私自身の価値観や考えを次世代に押し付けるつもりはありません。ただ、実際に株式を手放すという段になって、ちょっとセンチメンタルな気持ちにはなりましたね。人生をかけてやってきたことなので、やはり寂しさはありました。
 
塚越:
それは創業者として自然な感情なのではないでしょうか。私たちは、事業承継を支援する側として、単に手続きを淡々と進めるのではなく、そうした創業者の心情にも細やかに寄り添っていきたいと考えています。
 
藤原:
ありがとうございます。いずれ会社は、新生事業承継とは別の先に受け継がれることになるのでしょうが、できれば社名が残る形で発展していけば良いなと思っています。その点も考慮してくれていると感じたので、新生事業承継に決めたんです。

エス・ピーパックのショールーム。企画力と提案力で付加価値ある商材づくりに定評があります

創業オーナーが事業承継で感じる不安とは

塚越:
私どもが出会うきっかけとなったのは、お取引のあるほかの金融機関からのご紹介でしたよね。
 
藤原:
そうです、1年程前になりますね…。付き合いのある別の銀行に相談しながら、事業承継の可能性を探り続けていました。実際に経営者候補となる人材を派遣してくれた銀行もあったのですが、先程話にも出たように、経営者としての決断と実行を伴う重責を託しきれるか、当時は踏ん切りがつきませんでした。コロナ禍を経て、今後を見据えた打ち手を考えねばと思い始めていたころ、某銀行さんから新生事業承継を紹介されたというわけです。
 
塚越:
私たち新生事業承継の強みは、資金力や経営ノウハウの提供にとどまることなく、経営人材についても社内外のネットワークを通じて補強することで、新しい経営体制へのスムーズな移行を実現できる点にあります。
藤原さんは資本と経営の両方をまとめて委ねることができる相手として、私どもをお選びくださったと受け止めていますが、ご自身で舵取りされてきた会社の経営を他人に委ねることについて、ご不安はありませんでしたか。

藤原会長からバトンを受け取り、藤原会長の思い描く事業承継の実現に取り組む塚越さん

藤原:
私が最も気にしていたのは、新生事業承継の出口戦略です。企業の株式を買い取り、経営改善によって企業価値を高め、その上で再譲渡して利益を得る。そうしたビジネスモデル自体に、私自身、これといった異存はありません。しかしながらその結果として、当社の社員にしわ寄せが行ったりしないだろうかとの心配はありました。
これまで会社の成長を一生懸命支えてくれた優秀な社員たちが、再譲渡先の下で不幸になるようなことはないか、その一点だけが気がかりだったのです。しかしながら、新生事業承継は、私の思いを汲み取り、何よりも社員を大切にし、柔軟な出口戦略を考えようとしてくれている。それは、正直いってありがたいと感じました。
 
塚越:
既存の企業文化や枠組みへの配慮を欠いた状態で、無理やり何かを変えようとしても、うまくいかないことが多いと感じます。M&Aや第三者承継が成功しづらいといわれる要因のひとつでもあります。
 
藤原:
塚越さんは、これまでも多くの会社の事業承継を見てこられた立場ですよね。そういう意味では、苦労された場面もあるのでは?
 
塚越:
そうですね、第三者承継においては、新たに参加する側、それを迎え入れる側のどちらにとっても、異文化と交わることになるわけですから、やはりお互いに緊張するものです。ときには衝突やすれ違いも起こりえます。だからといって、そこで躊躇していても始まりません。私たちは、日々の支援を考える上で、「エス・ピーパックの役に立つことをしよう」という意識を何より大事にしています。日本の中小企業における事業承継のお手伝いを通じ、社会の役に立つ存在でありたいと、強い使命感を抱いています。この姿勢を崩さずにいれば、いずれは社員の皆さんにも理解され、受け入れていただける日が来る。そういった信念をもって臨んでいます。
 
藤原:
新生事業承継の対応を見ていると、当社の企業文化を理解し、尊重しようとしてくれているなと感じます。社員も当初は不安を感じたかもしれませんが、今では新たな経営体制の下、モチベーション高く仕事に邁進してくれています。本当に良いタイミングでスムーズに承継できたと思いますね。

60代になったら、創業オーナーは事業承継を考えるべし

塚越:
ご自身の経験を踏まえ、事業承継を考えている企業オーナーに向けて、メッセージやアドバイスをいただけませんか。
 
藤原:
何よりお伝えしたいのは、事業承継には時間がかかるということです。実際の承継の手続きだけでなく、承継に踏み出すまでの段階も含めると、想定以上に時間を要するというのが実感です。
 
私の場合、事業承継を考え始めてから具体的な行動をとるまでに、7~8年程かかりました。決断するまでの「悩む時間」もありますし、どのような形で承継すれば良いのか、さまざまな選択肢を比較検討する時間も必要です。とはいえ、やみくもに時間をかければ良いというものでもないのですが。ですから、それを見越して早めに動くことが吉だと言いたいですね。

エス・ピーパックの今後について語り合う2人

塚越:
事業承継には焦りは禁物ですが、思案するばかりでは、いたずらに時間が過ぎてしまいますよね。確かにさじ加減が難しいところだと思います。
 
藤原:
そう、ですから経営者としてはある程度の年齢に達したら、この事業をどのように次世代に引き継ぐかをイメージし始めるべきだと思います。できれば、自分自身の気力体力に余裕のある、60代のうちに考えておくのがいいでしょうね。
 
自分自身がいつまで経営者として会社を率いるのか、そのタイムリミットを決めておいて、それに間に合うように、具体的な手段を検討し始めていくとよいと思います。私の場合はちょうど良いタイミングで、新生事業承継と出会えたことで、長年の悩みをようやく解決することができ、ほっとしているところです。
 
塚越:
エス・ピーパックにおける事業承継は、本質的な面においてはいまだ道半ばとも言え、現在進行形で進んでいる最中です。私たち新生事業承継の役割は、社員の皆さんや取引先に安心していただけるよう、信頼できるネクストランナーにしっかりとバトンをつなぐことにあります。会社の持ち味や強みを活かしつつ、経営上の課題にもしっかりと向き合い、さらなる発展を共に目指していきたいと考えています。
 
藤原:
私が新生事業承継に託したバトンが、少しでも良い状態で次のランナーへとつながれていくことを願っています。そのときこそ、エス・ピーパックの事業承継が無事に完了したと言えるときなのでしょう。
 
塚越:
そのとおりですね。我々もそのときまで緊張感を持って「エス・ピーパックのためになる」働きかけを続けていきたいと思います。

【編集後記】
株式譲渡から今日まで半年余りの間、具体的な経営課題について話し合うことが大半であったという藤原さんと塚越さん。エス・ピーパックが藤原会長とともに歩んできた歴史を改めて振り返る中で、「企業にとって現状維持は衰退の始まりである」と、お二人の声がそろう場面もありました。良き企業文化を守りながら、企業価値をどのように高めていくべきか、藤原会長が思い描く事業承継の完成を目指して、お二人の挑戦はこれからも続きます。

執筆/植野徳生 撮影/橋本千尋

こちらの記事は、SBI新生銀行グループの新生事業承継・SBI新生銀行に関する記事です。

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