山形銀行の地方創生~サステナビリティへの取り組み~
昨今、地域金融機関は地域の核としてESG地域金融の実践が期待されているなかで、お客さまである地元の中堅・中小企業や、地域の実情に応じた実効性のある推進体制づくりが課題となっています。
SBI新生銀行は、これまでに培ったサステナビリティに関する知見やノウハウを活用して、山形銀行と協働し、山形県における課題へのアプローチや、山形銀行の法人のお客さまのESG経営の実践・向上に繋げるべくKPIローンの設計支援を行いました。併せて、KPIローンの導入に向けた行員向け研修の実施や対話ツールの作成・活用など、継続的なサポートに取り組んでいます。
このプロジェクトの中心となって取り組んでいる山形銀行の菊地さんに、同行のお客さまにおけるサステナビリティ推進の課題や、山形銀行での取り組み、地方創生への展望など、当行の各担当者がお話を伺いました。
山形のサステナビリティ推進の課題とは?
長澤:
本題に入る前に・・。菊地さんはUターン就職と伺いました。山形銀行へ就職を決めた理由や、山形の魅力など教えてください。
菊地:
東京の大学に進学し充実していましたが、就職を考えた時に、やはり山形が好きで、自分の生まれ育ったところをアピールしたい、元気にしたい、という思いで戻ることに決めました。そういった思いを一番叶えられると思ったのが山形銀行でした。山形県人は、よく気が利く働き者の印象があります。商売気質という面もあるかと思います。
長澤:
東京での大学生活4年間があったからこそ、山形の良さに改めて気づいた面もあるのかもしれませんね。そういった山形ならではというところもあると思いますが、本プロジェクトに取り組まれる前、御行あるいは御行のお客さまのサステナビリティの推進や地方創生に関してどのような課題認識をお持ちでしたでしょうか。
菊地:
2021年12月に、当行グループでは「サステナビリティ方針」「環境・社会に配慮した投融資方針」を制定し、サステナビリティ方針に則り活力ある地域社会づくりに貢献するという方針を掲げました。一方、方針は掲げたものの、推進体制はできておらず、営業企画部門として、営業でできることって何だろうと考えた時に、お客さまへどういうアプローチをすべきか、当行に不足しているものは何か、を明確にする必要があると感じました。
ある調査によると、県内では、SDGsという言葉は知っているけれど、まだ取り組んでいない企業が40%とありました。まずはお客さまのサステナビリティへの理解を深めていくことが大事と考えています。
長澤:
お客さまのサステナビリティへの取り組みはこれから、というところですね。では、中堅・中小企業のお客さまの支援にあたり、SBI新生銀行と提携・協業に至った経緯・背景について教えてください。
菊地:
2021年7月に御行が組成したシンジケートローン形式のサステナビリティ・リンク・ローンに参加した際に、御行がこれまで多くのサステナブルファイナンスの組成実績や本分野に高度なノウハウ・知見を有していることをお伺いしました。
御行から、当行行員への研修開催や、当地の企業にマッチした商品開発支援などの提案をいただき、当行の課題解決や、当地の企業の取組支援につながると思いました。提携による当行版のオリジナル商品の開発も、他の地方銀行と大きく差別化を図ることができるとも考えました。
石関:
今回、山形銀行の新商品(ESG経営目標と金利が連動したKPIローン)を一緒に設計させていただきましたが、弊行としてもとても良い経験になりました。設計するにあたって、御行が感じていた地域課題を見直されたり、御行のお客さまの抱えている課題をご共有いただく機会があったと思いますが、このローン商品の提供を通じて特にアプローチしていきたい課題について教えてください。
菊地:
今の地域課題は、サステナビリティの取り組みの土台をつくるところからと考えています。他の地方銀行との情報交換においても、上場企業、特に自動車産業関連の製造業から上位サプライヤーに対し、環境・社会等への取り組みに関するアンケートが届いており、取組状況によっては今後の取引を検討するといった要請が来ていると伺いました。当行ではそういった状況におかれているお客さまが少ないのですが、今は大丈夫であっても突然対応しなくてはならないことがあることを啓発する必要があると感じています。取り組んでいないとまずいと感じてもらうことが重要であり、早期にアプローチしていくことが課題です。
チェックシートがお客さまとの対話のツールに
石関:
御行として新商品をきっかけにお客さまとサステナビリティに関する対話を実践されたいということで、お客さまのお取り組みの状況を広く聞けるようなチェックシートを作成させていただきました。このツールをどのように活用されていますか?
菊地:
取組実態の把握とお客さまの気づきにつながるよう活用しています。ヒアリングすべきことを凝縮し、かつ的確な質問内容となっているので、しっかりヒアリングできれば企業の取組実態の把握につながります。工夫しながらチェックシートを使って、今日は特にこれを聞いてみよう!など、お客さまとの対話に役立つツールにもなっています。
石関:
今までは何となく感じられていた課題が、このチェックシートを通じて対話することによって、より課題を明確にできるようになった、ということでしょうか?
菊地:
チェックシートを活用して、お客さまのサステナビリティ課題を明確にしたい、という狙いがありましたが、チェックシートを確認していくと、サステナビリティ関連以外の課題も見えてきて、改めて現状を見直さないといけないという気づきにつながっています。想定とは違いましたね。
石関:
「お客さまのサステナビリティ課題解決に対しローンを通じて支援する」というシナリオを描いていましたが、そんなに近道はないのかもしれませんね。お客さま自身に新たな気づきがあって、まずは体制を整えたうえで、事業の機会に対しては、銀行の融資を通じて取り組んでいただくといった段階を踏んでいくことが必要かもしれませんね。
石関:
営業店の方々にこのチェックシートを顧客との対話に活用することを浸透させていくことも重要かと思いますが、いかがでしょうか。
菊地:
はい、当行で、サステナビリティ推進を「SDGs/ESGコンサルティング」と呼んで、理解促進→取組支援→実行支援とワンストップサービスが可能となる仕組みを整えて、チェックシートを活用した取組支援を行っています。併せて、現状県内の支店に一名ずつ推進担当者を任命しているのですが、経営者との対話においては支店長クラスにも知識を習得しもらう必要があるので、各店の支店長クラスの研修会開催も検討しています。
石関:
今後、この新商品(ESG経営目標と金利が連動したKPIローン)を魅力的に感じてもらうには、御行としてどのような取り組みが必要でしょうか?
菊地:
金利を重視されるお客さまも多いですが、サステナビリティ課題の達成に応じて金利が変動するという商品の本来の目的であるサステナビリティの推進をまずはご理解いただくことが重要と考えています。併せて「サステナビリティに取り組んでいる会社」ということをアピールに使ってほしいと思っています。取り組んでくださったお客さまを当行のホームページでご紹介することで、お客さまのPR活動を支援したいと考えています。
行員向けサステナビリティ研修で感じたこと
朝野:
先程「SDGs/ESGコンサルティング」のお話を伺いましたが、営業担当者向けに推進のサポートも必要ですね。5月にサステナビリティに関する基礎知識や今後のお客さまへの支援について、理解を深めてもらう研修を実施しましたが、参加者はどのような反応でしたか?
菊地:
大変手ごたえがありました。当行は行員向け研修等を実施しておらず、各々が一般的な知識しか持ち合わせいなかったのですが、研修実施により、積極的にお客さまと対話できたり、推進担当者が自店で勉強会を開催し、知識の底上げを図ったりと、少しずつですが動いている実感があります。
朝野:
少しずつ動いている、というのはとても嬉しいです。研修がよかったという参加者の反応があっても、研修が行動の変化につながっていく場面は多くはないので。次回の研修開催の気づきになるようなことはありますか?
菊地:
推進担当者ごとに習得レベルや取り組みにバラつきがあるようでした。また、誰に対してどういう内容の話をするかイメージが湧いていない担当者もいました。業種別の取組事例や県内企業の取り組みなど身近な事例を用いた研修内容にするとよりイメージが湧く内容となるのかな、と思います。
山形の地方創生への想い
長澤:
本プロジェクトを通じて、ご自身の成長・気づきはありましたか?
菊地:
今まで誰も取り組んでない分野で、ゼロから企画できたことは自分自身の大きな成長につながりました。今まで営業店で担当していた頃は、短期目線での収益優先の考えでしたが、サステナビリティ推進に携わったことで、中長期的な企業の将来のために重要なことが何かを考えるきっかけとなりました。
長澤:
最後に、菊地さんが考える地方創生、地域における今後の活動についてお考えをお聞かせください。
菊地:
事業承継の問題や、事業の転換など、企業が抱えるさまざまな課題の一つとして、サステナビリティの分野があると思っています。今、サステナビリティは、社会的・環境的な持続可能性と経済成長を両立させる概念として浸透しています。サステナビリティの課題に取り組むことが今後の事業の継続につながり、人口減少に歯止めをかける、企業を誘致して働く場をつくる、など山形県の底上げにつながると考えています。
そのために、「SDGs/ESGコンサルティング」を当行に根付かせ、当たり前に推進できる仕組みを整えることが当面の私の課題だと感じています。
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